SMダダイズム

ダダイズム・・・・第一次大戦の末期ごろ、スイス、フランス、イギリスで起こった伝統的な美に反抗する芸術運動。

M女アシスタントの謀略により、ミストレスとの縁の切れたう〜は密かに新しいミストレスを探し始めた。
 自宅のパソコンがM女に乗っ取られたため、ネットカフェでインターネットを使った。
 その検索作業は長時間に及び、時に徹夜になることもあった。

食料品を持ち込み、カフェのテーブルで仮眠をとる姿を見て、周囲の者はネット難民と思っていただろう。
ひたすら検索を続ける事、実に4日間、彼はついに、SM活動に積極的なあるS女性のサイトを見つけた。
このS女性のサイトは特別に親切で、ネットでミストレスを見つけるための有力なヒントが載せられていた。
そのS女性によると、M男募集と、何処かの掲示板に書けば一週間で200通ものメールが届くそうだ。
しかしながら、まともに読む気になるものは殆んど無いと言う。

しかも、本文はおろか、件名だけでゴミ箱送りになるものが過半数を占めるという。
 そして、本文を読んだとしても、最初の一行でゴミ箱送り、最後まで読む気になるものは数える程しかない。
いったい何故、このような悲劇的な事が起こるのであろう。
まず、そのメール自体が多分にセクシャルハランスメントの要素を含んでいるからである。
 例えば、件名に「浣腸して下さい」とか「射精管理して下さい」とかいうのは完全なセクハラである。
 
次にセクハラ類似と思われるのは「奴隷にして下さい」「調教して下さい」の類である。
更に「〜県在住のM男です」「何がお好きですか?」という件名もセクハラ類似行為と捉えられているようだ。
 本来、M男募集と書いたのだから、このようなメールが届いても何ら不自然ではない、何処に住んでいる男か分からなければ、付き合いようもないし、何が好きか分からなければ、相性も分からない、M男にしてみれば、このようなメールを送っても、セクハラと捉えられる事はないだろうと思う。
 
しかし、良く思考を巡らせてみよう。
例えば、一人歩きの女性の前でパーとコートを捲り、局部を見せ付ける変態がいる。
 その男は、自分に向かって歩いてくるのである、コートを捲る前からセクハラ準備段階に入っているのである。
 センサーの鋭い女性は、セクハラと思しき行為を受け、自分が傷つく事を回避するため、ほんの僅かでも、その兆候を感じ取れば直ぐにゴミ箱に落とすのである。
したがって、例え件名のハードルを越えても、本文のハードルでセクハラと受け止められるような文言が少しでもあれば、後は読まない。
 S女性に最後までメールを読んでもらうだけで苦労するのに、アポイントまで行く付くには、よほどタイミング良く、かつ感性に訴える何かがある場合だけであろう。
「これは、困った」
 考え込む事二日間、う〜はある奇策を思いついた。
 
拝啓
寒さ厳しき折り、皆様方にはますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
 さて、本年も恒例の「う〜虐め会」を下記の通り催したいと存じます。
ご多忙中のところ、誠に恐縮ではございますが、万障お繰り合わせの上、ぜひともご出席を賜りますよう、お願い申し上げます。
 なお、ご不明な点は事務局(三沢)misawaryu@yahoo.co.jpまでご連絡願います。
敬具


日時 3月29日(土) 午後8:00〜午後11:00
場所 ○○県山芋郡たわけ村大字田吾作イ24
   田吾作旅館 鳳凰の間

当日は、使いたいお道具をご持参下さい。
なお、出席者には記念品としてゴディバのチョコ(ゴールドコレクション 24粒入)を進呈いたします。(数に限りがありますので、出席者多数の場合は先着順にて締め切らせて頂きます)

以上
「こりゃいいぜ!」
 う〜は自分の考えた奇策に酔いしれていた。
まず、これは特定のS女性に当てたメールではない。
 従って、選択権は向こうにある、選ぶ権利をS女性が確保できるのである。
また、招待状ゆえ、同じ文が方々に出回っても不自然ではない。
 コピペで、多数のS女性に同じ文のメールを送る輩と思われる事も無い。

更に件名にも本文中にも、いっさいSM用語を使っていない、セクハラメールと捉えられる事も無い。
 道具の類も、出席者に持参してもらう事にしてある、自分のお気に入りの道具で責めてくれという、してくれ君にも思われないであろう。
 事務局を別名で設けたのも工夫である、こうする事によって、個人の行動ではなく、組織だったイベントと思われ、信用を得る事が出来る。
 更に辛辣なう〜は、初めての試みであるにも係わらず「恒例の」という一文をいれた、これにより、毎年行われているイベントと思わせ、安心感を与えようとしているのである。
 何故なら、評判の悪いイベントであれば、すぐに立ち消えてしまうからだ、少なくとも数回続いているようなイベントであれば、怪しい催しではないであろう。
 
更に、おまけに豪華なチョコを付け、イベントの付加価値を高める、実に巧妙で節操の無い作戦である。
 30畳の宴会場の賃貸料が3時間で2万5千円、ゴディバのチョコが5箱で2万6千250円、その他雑費が5千300円、合計5万6千550円の出費であるが、ミストレスを探すための活動費である、う〜は出費を惜しまなかった。
う〜は旅館の手配を済ませると完成した招待状を手当たり次第に送信した。
HPやブログはもちろん、情報系サイトから拾えるS女性のメアドに片っ端から送りつけ、その数は1000を越えた。
 
一階鳳凰の間 う〜を虐める会
イベント当日、う〜は田舎のひなびた温泉旅館の玄関の案内板にチョークで書かれた文字を満足げに見つめていた。
「ついに、イベントに漕ぎ付けた」
 今日、素敵なミストレス様が僕の前に現れるのだ。
う〜の心に過去の経緯が走馬灯の様に蘇った。
今までの苦労が報われる、そう思うと、胸に熱い思いが込み上げ、目頭から涙が零れ落ちてきた。 
 「グスン」ごしごし。
手のひらで涙を拭うと、う〜は車から記念品としてくばるゴディバのチョコを降ろし30畳の大広間の隅に積み上げた。
そして、仲居さんに来賓が着いたら、部屋に案内をするように頼み、広間の真ん中に座した。
 後は、参加者が現れるのを待つだけである。

イベントが終了するまで、仲居さんには広間に入らないように告げてある、入り口の襖の陰から中に向かい声を掛けるだけである。
 そうすれば、中で何が行われていようと、人目を気にする必要はない。
「最初に現れるのはどんな人だろう」
「いや、ひょとしたら誰も来ないかもしれない、そしたら惨めだ」
 う〜は期待と不安の入り混じった複雑な心境で仲居さんの声が掛かるのを待った。
午後8時を30分ほど過ぎた頃、仲居さんの声が聞えた。

「徳川光圀様ご一行が到着されました」
襖がガラッと開いて、水戸黄門が現れた。
 TVドラマと同じ様に助さんと格さんをお供に連れている。
この旅館には演芸ホールがある、う〜は旅芸人が部屋を間違えて入って来たと思った。
「あの〜、ホールはここじゃないんですけど・・・・」
 顎鬚を生やし、杖を持った水戸黄門は言った。
「あなたがう〜でしょ、招待状を見て来たのよ」
 着物姿で、ちょんまげを結い、顎鬚を生やしているが、良く見ると女性のようだ。
ちゃんばらの着物を着て日本手ぬぐいを頭に巻き、太い眉毛を描いている助さん格さんも、やはり女性のようである。
「私達は、時代劇とSMをコラポレーションするSMパフォーマンスグループよ」

 う〜は面食らって言った。
「じ、時代劇とSMを・・ですか?」
 水戸黄門は杖で畳を叩きながら言った。
「まさか、あなた、網タイツにアイマスクつけて、バラ鞭持った女王様が現れると思ってたんじゃないでしょうね」
「いや〜、そんな都合の良い事はないと思ってましたが、水戸黄門が現れるとわ・・想定外でして・・・」
「え〜い、黙れ黙れ、越後屋!」
 助さんがう〜と黄門の間に割って入った。

「お前が、藩主を騙し、上納金を横領している事は分かってるんだ!」
 う〜は、顔を下に向け呟いた。
「そ、そんな、だんな、あっしゃ、悪い事など、しちゃいえあせんぜ」
 水戸黄門は、広間を見渡しながら言った。
「助さん格さん、この越後屋の屋敷の何処かに、横領した十両箱があるはず、良く探して見なさい」
「がってんだ!」
 助さんと格さんは、部屋の隅に積み上げてあった、ゴディバのチョコレートの箱を持ってきた。
「ご隠居、こんなものが隠してありました」
 水戸黄門はチョコレートの化粧箱を手に取り言った。
「これは、十両箱、やはり横領していましたな」
 
う〜はバカバカしくなって来た。
「あの〜、このストーリープレイに付き合わないといけないですか?」
 水戸黄門は真顔で答えた。
「ストーリープレイなんて、どうせ、下着ドロで捕まって都合の良いお仕置きされる想定でしょ、そんな既成概念に捉われたプレイなんて、もう古いのよ、私達はストーリープレイのニューウエーブを作るの、SMダダイズムよ!」
「ぼ、僕は古くても良いから、普通のSMで良いです」
「それは変ね、だって、招待状にSMなんて書いてなかったじゃない?」
 
水戸黄門の言う事には、確かに一理あった、招待状にはう〜を虐める会としか書いてなかった、SMとは一言も言ってない。
「し、しかし、ですね・・常識で考えれば・・・」
 まだ、口をもごもごと動かすう〜であった。
格さんが怒鳴った。
「往生際が悪いぞ、越後屋、かんねんせい!」
 議論してもどうにもならない、う〜は黄門の手からチョコを奪い取ると、ペンギン走りで部屋の隅へ逃げて行った。
ペタペタペタ。
「助さん、格さん、悪党の越後屋をこらしめておやりなさい!」
 水戸黄門に命令された助さんと格さんは、チョコを持って逃げるう〜を取り押さえ、げんこつでボコボコ叩いた。
「痛い、痛い、止めて、叩くなら、鞭でお尻を叩いて」
 水戸黄門は杖でう〜のお尻を力いっぱい叩いた。
ボキッ!
「ぎゃ、つ、杖は止めて!」
 
水戸黄門は杖でう〜の尻を小突きながら言った。
「あなたが、好きな道具を持って来いって言ったんじゃない、だから、杖を持ってきたのよ」
 これもまたごもっともな話、招待状には使いたい道具をご持参下さい、としか書かなかった。
「分かりました、どうぞ、チョコを一つお持ち帰りになり、お引取り下さい」
 助さんと格さんは、う〜の前に仁王立ちし、印籠をかざした。
「控え居ろう!この紋所が目に入らぬか、先の副将軍徳川光圀様であらせられるぞ!チョコが一個とは無礼千万!」
 う〜は黄門様に土下座して謝った。
「うへへ〜、では、チョコを三つお持ち帰り下さいませ」
 その時、襖の陰から仲居さんの声が聞えて来た。

「北町奉行・遠山左衛門尉様がお見えになりました」
 襖がガラッと開くと、またしてもチャンバラ衣装の女性が現れた。
今度は金や銀の糸を使った豪華に見える着物姿であった。
 先ほど、水戸黄門がSMと時代劇をコラポレーションするパフォーマンスグループと言っていた、と、いう事は、この遠山左衛門尉もグループの一員であろう。
水戸黄門が言った。
「ちょうど良い所にお奉行が来ましたな、助さん、格さん、この越後屋の裁きはお奉行様に任せましょう」
「がってんだ!」
 助さんと格さんはう〜を引っ立てると、座敷の真ん中に座らせた。
今ほど着いたばかりの北町奉行・遠山左衛門尉様は何故か部屋の隅で待機している。
 水戸黄門はう〜の前に座布団を十枚程重ね大きな声で言った。
「北町奉行・遠山左衛門尉様、ご出座〜!」
 助さんと格さんが、ドンドンドンドンと言い出した。
どうやら、太鼓の音の声帯模写のようだ。

 すると、部屋の隅で待機していた北町奉行・遠山左衛門尉様が、長袴の裾を擦るようにすり足で歩き、座布団の上に座った。
「これより上納金横領の件について吟味を致す、一同の者面を上げい!」
 う〜は遠山左衛門の前で正座し、ポカンとしていた。
助さんと格さんは、う〜が逃げ出さないように、両腕をしっかり掴んでいた。
「さて越後屋、罪状は上納金横領とあるが相違無いか?」
う〜は真顔で答えた。
「あっしゃ、横領なぞしちゃいません、それはデパートで買ったチョコです」
 そこで、助さんと格さんが口を挟んだ。
「遊び人の金さんなら、全て知ってるはずです、お奉行様」
 う〜は顔を横に向け口を尖らせふて腐れた態度で言った。
「金さん?そんなどこの馬の骨とも判らない遊び人など全く存じません、証拠がないのなら釈放してほしい」
「名奉行と言われた遠山様が、確たる証拠も無いのに善良なM男を罪人扱いとは嘆かわしい」
 水戸黄門も助さんも格さんも北町奉行も黙していた。
調子に乗ったう〜は語気を荒げ怒鳴った。 
「金さんを出せ!」「出してみろ!」
 
う〜は口をへの字に結んで黙っている北町奉行を見て、形勢は自分に有利と判断した。
 さらに語気を強め喚き始めた。
「だせ、だせ、金さんを、おら、出してみろ、このスットコドッコイ!」
 座布団の上に座していた北町奉行は、突然、片膝を蹴り出す様に持ち上げ、踵をズンと畳につけ、一喝。
「やっかましぃやい! 悪党!!」
「おうおうおう、黙って聞いてりゃ寝ぼけた事をぬかしやがって!」
「そんなに会いてぇなら会わせてやる。この桜吹雪に見覚えがねぇとは言わせねえぜ!」
「この遠山の桜吹雪、散らせるもんなら散らしてみろぃ!」
 と叫びながら着物の片肌を脱いだ。
すると、見事なサクラ吹雪が現れた、どうやら油性サインペンで時間を掛けて描いたもののようだ。
 助さんと格さんは金さんに向かい平身低頭。
「お奉行様とも知らずご無礼を…」

 う〜は最後の悪あがきを始める。
「おのれ遠山!」と叫びながら、金さんに襲い掛かった。
 金さんは長袴で、う〜の顎を蹴り上げる。
突然、アッパーカットを食らったう〜はその場で引っ繰り返った。
 そこをすかさず、水戸黄門が取り押さえる。
金さんは、着物をあらためながら、座布団に座りなおし、判決を言い渡した。

「本件の主犯、越後屋う〜には、市中引き回しの上、骨ヶ原で晒しアヌスの刑に処す」
「引っ立てい!」
助さんと格さんは、う〜を座敷の真ん中に連行すると、ズボンを脱がせ、チングリ返りの体勢で両手両足を縛った。
 かくして、う〜は臀部を丸出しにし、自らのアヌスを白日の下に晒す事になった。
「ちょ、ちょっと、かっこ悪い、止めて下さい!」
 水戸黄門は杖でう〜の尻を小突いて言った。
「助さん格さん、どうやら、この越後屋、まだ懲りていないようですな、もっと懲らしめておやりなさい」
 助さんと格さんは、座敷の飾りとして置いてあった花瓶をう〜のアヌスに突っ込んだ。
「ぎゃひん!」
「助さん、格さん、良い事をすると、気持ちが良いですな〜、わっははは!」
「はい、ご隠居」
 そういうと、徳川光圀様ご一行はう〜を一人残し、座敷を出て行こうとした。
「ま、待って、帰るなら、僕を解いて下さい」

徳川光圀様ご一行はう〜の要請を完全無視して、歌を歌いながら、襖を開けて行ってしまった。
「じ〜んせ〜い♪らくありゃ♪く〜もあるさ〜♪」
 北町奉行・遠山左衛門尉様は、まだ座敷に残っていた。
う〜は首を横に向け、遠山左衛門尉様に懇願した。
「お、お願い、解いて!」
 遠山左衛門尉様はハレンチな姿で喚いているう〜を見下ろしながら言った。
「天知る、地知る、人は知る、この世に悪の栄えた試しなし」
 う〜は遠山左衛門尉様の台詞を聞き、口を尖らせ言った。
「それは、桃太郎侍のセリフです、遠山の金さんは、そんな事言いません!」
 この一言は、遠山左衛門尉様の自尊心をたいそう傷つけたようだ。
遠山左衛門尉様はかつらを取り、着物を脱ぎながら言った。
「止めた、止めた、今の一言で、決定したわ」
 そこには、今までの事が嘘のように、ボンテージを纏った、たいそうセクシーな女王様が立っていた。
 これは一体、どうしたことか、う〜は手で目を擦りたかったが、縛られているので擦る事が出来ない、まぶたをパチクリと動かして現実を直視した。
「今までは、テストだったのよ、あなたがどれくらいM性が強いかのね」
「あなたは落第、結局、ただのしてくれ君よ」
 う〜が狼狽したのは言うまでもない。
「ちょ、ちょっと待って、僕はしてくれ君ではありません、ただ、今日は、あまりにも唐突だったので・・」
 女王様は腕を組んで言った。
「M性が高ければ、何でも喜んで受け入れるはずよ、あなたは、最初から最後まで決して喜んでいなかった、それに、今でも解けと喚いているじゃない、それは、今の状態があなたの嗜好に合わないからでしょ、結局、自分の嗜好以外の事は受け入れられない、そんな人はMじゃないのよ」
「でも、少しは打たれ強そうだから鞭打ち用の奴隷として遊んでやろうかと思ったけど、止めたわ!」
女王様は脱いだ着物を再びはおると、ゴディバのチョコを掴み、座敷を出て行ってしまった。
徳川光圀様ご一行が三箱、遠山左衛門尉様が一箱、持って行ったので、残りのチョコは一箱である。
 う〜は拘束を解こうと必死にもがいていた。

三時間の宴会として借りている座敷である、時間が来れば仲居さんたちが後片付けに入って来る。
既に二時間は経っているだろう、早く解いてズボンを穿かないと、仲居さんたちにこの卑猥な姿態を晒す事になる。
だが、きつく縛られた手足は、自力ではどうにも解くことが出来なかった。

「子連れ狼様がご到着されました」
 仲居さんの声が聞え、ガラッと襖が開いたと思うと、浪人風の侍が入ってきた。
 乳母車を押している。
子連れ狼は、チョコを見つけると、乳母車に乗っている幼児にそれを渡した。
「大五郎、チョコを見つけたぞ!」
「ちゃん!」
「大五郎!」
「ちゃん!」
 子連れ狼は、乳母車を押しながら座敷を出て行った。
どうやら、う〜の事は最初から眼中に無かったようである。

「木枯らし紋次郎様がご到着されました」
 襖が開くと、さんどがさを被り爪楊枝を銜えた紋次郎が入って来た。
「お願いです、紋次郎様、解いて下さい」
 う〜は泣きそうな声を出して紋次郎に懇願した。
さんどがさを深く被っているので、紋次郎の顔の表情は見えないが、首の動きから推測するとチョコを探しているようであった。
「あっしにゃ関係ねえこってござんす」
 チョコが無いと分かった紋次郎は、そう言うと、ペッと楊枝を飛ばし、出て行ってしまった、どうやらこの紋次郎も子連れ狼同様、チョコにしか興味がなかったようだ。

かくして、誰も居なくなった座敷で、う〜はひたすら荒縄と格闘していた。
花瓶を突っ込まれたアヌスは痛むが、それどころではない。
時間が差し迫っているのだ。
「は、はやく、解かないと、やばい事になる、い、今、何時だ?」
 その時、襖の陰から仲居さんの声が聞えた。

「マリア女王様がご到着されました」
 豪華なミンクのコートを羽織った長身の美女が現れた。
マリア女王様は冷たい視線でう〜を見下していた。

「マ、マリア女王様、どうか僕を解いて自由にして下さい」
 う〜は必死で懇願した。
マリア女王様はいかにも情けないという表情で言った。
「ちょっと変わったメールが届いたから見に来てみたんだけど、ただのド変態だったわね」
 う〜は必死で弁明した。
「ち、違います、これは水戸黄門が来て、その後北町奉行・遠山左衛門尉様が現れて、あっというまに越後屋にされて、不当裁判で晒しアヌスにされてしまって・・・」
 
マリア女王様は、う〜に軽蔑の視線を投げかけながら言った。
「あなたは、変態で誇大妄想ね」
 う〜は更に弁明を続けた。
「もともと、こうなったのは、M女アシスタントのせいなんでしゅ」
 マリア女王様は怒りの表情を見せ、語気を荒げた。
「自分の異常性癖を女のせいにするなんて、本当に最低の男だわ!」
「ところで、ゴディバのチョコは何処にあるの?」
 
う〜は手足をもごもごと動かしながら言った。
「さっきまで、一箱残っていたけど、子連れ狼が持って行っちゃたよ〜」
 マリア女王様はふ〜とため息を漏らすと言った。
「結論、きみはド変態で誇大妄想で被害妄想で嘘つき、救いようがない男だわ、さようなら」
 マリア女王様は襖を開けて座敷を出ようとした。

う〜は必死で呼び止めた。
「ちょ、ちょっとまっちぇ、ぼきゅをおいてかないで〜!」
 言うまでも無く、マリア女王様はう〜の懇願を無視して去ってしまった。
その時、時計はすでに10時50分を回っていた。
 う〜は縄を解こうとひたすら努力を続けたが、ついに縄は解けず、宴会終了の11時が来てしまった。
「だんなさん、お時間です、襖、開けますよ」
 後片付けのために数人の仲居さんが入って来た。
「きゃ〜、変態!」
「化け物!」
「ゲス野朗!」
「さいてー男!」
 仲居さん達は悲鳴とも怒号ともつかない叫び声をあげ座敷を飛び出して行った。
 旅館の支配人はたわけ村駐在所に通報、う〜は駆けつけた警察官に身柄を確保された。
 その後、本署に連行され、事情聴取を受けたう〜は事の一部始終を包み隠さず全て話した。
 結果、幸いにも公然わいせつ罪での刑事告訴は免れた。
花瓶が局部を隠していたたため、性器は公に露出されておらず、わいせつ罪には充当しないというのが理由である。
 また、旅館の支払い等も滞りなく行っているので、詐欺罪でもない、結局、市条例の迷惑行為防止法違反ということで、罰金5万円の支払いを命じられるに止まった。

 一週間後、う〜はネットカフェで一人寂しくメールを眺めていた。
「いろいろ、楽しかったな〜、れい子さんはどうしてるだろう」
 受信箱と送信箱を交互に開いて過去のメールのやり取りを何度も読み返した。
「もう、会えないんだな〜、れい子さん・・グスン」
 う〜には、もはや新しいミストレス様を探すバイタリティーが無かった。
ただ過去の思い出にしがみ付き回顧主義に生きるしか術が無かったのである。
 その時、受信箱に一通のメールが届いた。
差出人はれい子さんである。
 本文には、メアド変えたので登録、よろしく、と書かれていた。
「こ、これは・・」
 う〜は慌てて返信した。
「この前のメールは読まれなかったのですか?」
 すると、読んでないよ、何か送ったの?
と、いう返事が届いた。
う〜が歓喜した事は言うまでも無い、M女アシスタントが送った不適切なメールは幸いにも届いていなかったようだ。
「前に送ったメールは大した用事じゃないので、気にしないで下さい、ところで、今度の日曜日、会えますか?」
 う〜は全く気が付いていなかった、広間に現れた木枯らし紋次郎が他ならぬれい子本人だった事に。
 れい子はう〜から届いたメールを見ながらつぶやいた、一言。
「ドアフォ」と。

                           おしまい

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