PIGMAN
しばしば、M男は家畜として扱われたいという欲望に捕らわれる事がある。
しかし、これほど馬鹿げた事はない。
そもそも、家畜とは人間に使役を供する動物の事である。
搾乳用の牛、食用の豚、乗用の馬、取毛用の羊。
それらは人間に無い能力を持っている動物故に人間にとって利得があるのだ、人間が同じ能力しか持ち合わせていない人間という動物を家畜として繋養(けいよう)しても何ら益が無い。
奴隷としてならともかく、人間が人間を家畜として扱うという事は現実にあり得ない事なのである。
だから、どうしても家畜として飼育して欲しければ、そういう状況を誰かに創作してもらいエンターテイメントとして提供してもらう他に方法はないだろう。
あなたの欲望を叶えます。
家畜プレイ専門SMクラブ 家畜市場
電話 ○○○―○○○―○○○○
「ここだ!」
ネットでSMクラブのコマーシャルを見つけたM男う〜は嬉々とした。
「今度の日曜日、1時からお願いします」
電話で予約を済ませたう〜は日曜日を首を長くして待った。
毎日の仕事も手につかないくらいそわそわしていた、う〜というM男はそれほど家畜プレイに憧れていたのである。
ついに待ちに待った日曜日が来た。
いつもの日曜日と何も変わりない平穏な朝を向かえたう〜はベッドから起き上がり、まず目覚めのコーヒーを一杯飲んだ、そして、洗面所へ行き歯ブラシに練り歯磨きを付けた。
口の中に歯ブラシを突っ込みながら、鏡を見た。
「ん?」
何か変だな、僕の顔、こんなだったけ?
ま、歳だからな、顔の造作も少しぐらい変わるだろう。
洗顔と着替えを済ませると、う〜は家を出て街へ向かった。
何処かで遅い朝食を済ませ、ぶらぶらしながらSMクラブ家畜市場へ行くつもりだ。
マクドナルドのハンバーガーショップで朝マックを注文する。
「スマイル0円か・・・」
ん?何か変だな、ここの店員さんのスマイルは、何でだろう。
朝食を済ませ通りに出たう〜、周りをキョロキョロと見渡す。
別に街の作りが変わった訳ではない、商店も道路も行きかう人々も、車も何も変わらない、でも、何かが違う、昨日までの街と何かが違う。
「何が違うのだ?」
う〜は得体の知れない不気味な空気を感じていた、しかし、それは空間を漂う雰囲気のようなもので、実際に何が違うのかはっきり認識する事は出来なかった。
「ま、いいか」
その後う〜は、馴染みのデスカウントショップやPCショップで時間を潰し、
予約の1時丁度に家畜市場を訪れた。
出迎えた女王様の顔を見て驚いた。
「あ、あの〜、ぼ、ぼくぅ〜、人間の女王様が良いんですけど・・」
「何わけの分からん事言ってるの、家畜はあなたの方でしょ!」
女王様の言う事は最もだ、大体家畜が人間を選り好みする事自体おかしな話である。
「そ、そうですね、この際ブタでも我慢します」
「キ〜!失礼な事いう人ね、大体あなたこそコンセントみたいな鼻してまるでブタ顔よ」
は、鼻?
う〜は自分の鼻を触ってみた、確かに女王様が言うように、鼻の穴が少し大きくなったように思う、でも気のせいだろう、その時はそう思った。
「お前のような生意気な客は本当はお断りするんだけど、今日は暇だから相手してやる、裸になって四つん這いになりな」
全裸で四つん這いになるう〜、女王様はう〜に首輪をつけながら言った。
「お前はなんだ?」
「人間です」
「違うだろう!」
バシッ!
女王様はバラ鞭でう〜の背中を打った。
SM用のバラ鞭である、う〜は圧力で体を少し屈めたが耐えれない痛みではない。
「に、人間です」
「まだ、分からないのか!」
バシッ!バシッ!バシッ!
これは一種のストリープレイであろう、女王様の求める答えは分かっていてもわざと違う事を言う、女王様もその方が仕事をやりやすいかもしれない。
「分かるまで鞭で打ってやる」
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!
ソフトなバラ鞭は音こそ派手に立てるが痛みは大した事はない、う〜にとってそれは幾ら打たれても堪える事は出来るのだが、ここら辺で次の段階に進まなければ面白くない。
「ブ〜ブ〜」
「やっと分かったようね、お前はブタよ、私が良いというまで人間の言葉を話してはダメよ」
「し、しかし、女王様・・」
「やかましい〜!」
バシッ!バシッ!
「ブ、ブブ〜」
「ほほほ、そうそう、良い子だからブタのままでいなさい、それがお前の望みでしょ」
女王様は乗馬用の一本鞭を取り上げ言った。
「家畜には家畜用の鞭を使わないとね、お尻を突き出して」
う〜は四つん這いのまま後方に尻を突き出した。
「違う!頭を下げるの」
女王様はそう言いながらう〜の後頭部を踏みつけた。
そのとき、う〜は不思議な感覚を感じた、女王様は素足である、だから頭の後ろで軟らかい肉の感触を感じるはずだ、ところが、その時は少し違う感触を感じた、何かゴム質の固形物を押し当てられているような感触なのである。
「なんだろう、ゴム長靴でも履いているのかな〜」
う〜は床に付けている顔を少し横に向け、女王様の足を見た。
「変だな〜、やはり素足だ、なぜ固く感じたのだろう?」
ビシッ!バシッ!
尻に打ち当てられる一本鞭。
「痛い、痛い、痛いブ〜」
女王様はう〜を見下ろしながら言った。
「ブ〜なんてふざけた事言えるのなら、まだ余裕があるのよ」
ビシッ!バシッ!
更に強さを増す一本鞭。
「ちょ、ちょとブ〜、や、止めブ〜」
女王様は鞭打つ手を休めなかった、ブ〜ブ〜とふざけたブタ鳴きの真似をしているう〜を見て、喜んでいると思ったのだ。
だが真実は違っていた、う〜は本当に耐えられなくなっていたのだ、ふざけてブ〜ブ〜言っている訳ではない、意識せずにブ〜ブ〜というブタの鳴き声が自然に出てしまうのである。
「そ、その鞭、強すぎるブ〜」
う〜はそう言いながら、鞭から逃れようと四つん這いのまま前進した。
「こら、まて逃げるなブタ!」
女王様はう〜を追いかけ鞭を振るった。
この時、女王様は楽しんでいた、最初は生意気なM男だと思ったが、こうしてふざけながら責めに耐えてくれると気が楽である、最初から最後まで真面目に振舞われると返ってやりにくい、どのみち、ありえない事をやっているのである、適当にふざけてくれたほうがやり易い。
この時、う〜は嫌気がさしていた、女王様とは名ばかりのブタ女、何でもボンテージを着せれば女王様になると思っているのか、それに、こちらの事をかまわずに一方的に鞭を振り下ろす態度、別に客だからと言って威張る訳ではないが、少しビジネスという事を意識したらどうなのだ、楽しんでいるのはお金を払う俺じゃなくお金を受け取る女王様じゃないか、いいかげんにしろ!
「きゃはきゃはきゃはは」
四つん這いで必死に逃げるM男を鞭で追い掛け回すのが余程楽しいのだろう、女王様はキャッキャッとはしゃぎながらう〜を追い掛け回した。
「もうやめろ、本気で嫌がっているのが分からないのか!」
う〜はそう怒鳴りながら立ち上がろうとした。
しかし、立ち上がる事が出来なかった、それどころか声も出なかった。
いや、正確に言うと声は出たのである、しかし、それは人間の声と言えるものではなかった。
「ブヒ〜ブヒ〜、ブヒブヒブ〜」
ど、どうしたというのだ、喋れない、言葉が出ない。
女王様の責めは更に強さを増した、う〜が逃げれないように首輪にリードを付けるとそれをしっかり握り、尻や背中に鞭を振り下ろした。
ビシッ!バシッ!ビシッ!バシッ!ビシッ!バシーーッ!
我慢の限界を超えたう〜は悲鳴を上げた、しかし、それは人間の上げる悲鳴ではなかった。
「ブギャ〜!ブギャ〜!」
「おや、鳴き声が変わったのね、どうやら本当に応えているようね、少し休ませてあげるわ」
女王様はそう言いながら籐で作られた椅子に腰を下ろし、う〜を繁々と眺めた。
「あなたはどんな家畜になりたいの?馬、羊、やはり豚になりたいのかしら」
「ブギャ、ブイブイ、ブ〜」
う〜はふざけているのではない、自分では言葉を話しているつもりだが、口からは豚の鳴き声が出てしまうのだ。
「本当にふざけるのが好きな奴ね、じゃ、私のやりたいようにやるわね」
女王様は首輪に付けたリードを引き、う〜を膝元に引き寄せた。
四つん這いのまま、女王様の足元に寄るう〜。
「私のおみ足に奉仕しなさい、お前のような能無し家畜にはそれぐらいしか出来ないでしょう」
この時、う〜はムカムカと腹が立っていた、何が家畜プレイ専門だ、結局、ごく普通のSMプレイじゃないか。
「早くしなさい!」
ビシッ!
背中に一本鞭が炸裂した、相当強く打ったのだろう、見事なみみず腫れが背中に出来た。
「ブギュ〜」
強烈な痛みにう〜は思わず体を捻ったが、口から出るのは相変わらず豚の悲鳴であった。
く、くそ〜、いったいどうしたのだ言うのだ、何故言葉が喋れないんだ。
う〜は途方も無い焦燥感に駆られていた、このまま人間の言葉を話すことが出来なくなってしまうのか、僕は本当に家畜の豚になってしまうのか。
「ぐずぐずするな、バカ豚!」
ビシィッーー!
再び一本鞭が炸裂した。
う〜は否応なく、女王様の爪先に顔を近づけた。
ぎえ〜、こ、これはいったい何だ?
う〜が見たのはにょっきりと突き出た二本の爪であった。
こ、これは人間の足じゃない、ぶ、豚の足だ。
う〜は恐る恐る顔を上げ、女王様の顔を見た。
女王様の顔は完全に豚になっていた、最初見たときは豚顔の不細工な女に見えたが今は完全に豚の顔そのものである。
多大なショックを受けたう〜は大きな悲鳴を上げた。
「ブギャァァァァァ〜!」
この時の悲鳴も豚鳴きであった。
いつどのような時も豚の声しか出ない、発声という事に関してはう〜は完全に豚になってしまったのである。
な、なんだ、いったいどうしたのだ。
再び女王様のおみ足を見るう〜、薄いピンクのうぶげ、二本の蹄、完全に豚の足だ。
「どうしたブ〜、お前はご奉仕もブ〜、出来なブィブィ、ブ〜」
女王様の言葉にも豚鳴きが混ざって来た。
「まだブイ、鞭がブイ、足らなブ〜のかブィブィ」
そう言いながら、鞭を振り上げた女王様であったが、その鞭は振り下ろされる事はなかった。
女王様の手は豚の前足へと、その形態が変化してしまったのである。
指が蹄と変形してしまったので鞭を握る事が出来ない、女王様、いやボンテージコスチュームを纏った豚は鞭をポトリと落としてしまった。
その後も女王様の体は更に変化を続けた、首が縮み、胴の括れが無くなる、尻は丸くなり、座り続ける事が出来ず、ズルズルと籐の椅子から滑り落ちた。
サイズの合わなくなったボンテージコスチュームはすっぽりと抜け落ち、六つの乳首が現れた。
な、なんだ、どうしたというのだ、は!もしや。
う〜は慌てて自分の体を見た。
「ブギャァァァァ〜!」
再び豚の悲鳴が上がった、う〜の体も完全に豚に姿を変えていたのである。
手には指が無く蹄がついている、腹は薄いピンク色の毛で覆われている、顔は確認できないが、おそらく完全に豚の顔に仕上がっているという事は容易に想像できる。
今、SMクラブ家畜市場のプレイルームで二匹の豚が向かい合っている、一匹は元M男、もう一匹は元女王様である。
「ブィブィブブブ」
「ブ〜ブ〜ブ〜」
互いに何かを言い合っているのだが、会話など出来る訳がない、豚の鳴き声が響くだけである。
暫くは互いに鳴きあっていた二匹であるが、そのうち女王豚が爪でう〜豚の頬を小突き始めた。
「痛っ痛っ!」
や、止めろ、何をする豚女王。
女王豚はブイブイと鳴きながら、今度は後ろ足でう〜豚の腹を蹴り始めた。
いいかげんにしやがれ、この豚!
言うまでも無いが、もうこの段階ではSMプレイではないのだ、う〜の前にいるのはただの豚である、もちろんう〜自身も豚の姿になっているのだが心まで豚になった訳ではない、豚に頬を小突かれ腹を蹴られ、う〜は怒り心頭に達していた。
豚が豚に腹を立てたのである。
「ブギャギャギャ〜!」
雄叫びのような鳴き声を発し、う〜は女王豚の足に噛み付いた。
快心の一噛みであった、女王豚の後ろ足には深い噛み傷が出来て血が流れてきた。
「ブキブキブキキキキー!」
女王豚は悲鳴のような鳴き声を発し、プレイルームから外へ逃げて行った。